美醜
デンマークといえばその人をおいて他になく、かたや、その国にあって。古くはシェイクスピアに始まり、コナン・ドイル、アガサ・クリスティとキラ星が如く文豪ひしめく中にダントツの人気を誇るは。シリーズ全体の映画の興行収入はスター・ウォーズに迫らん勢いとか。
駅のホーム9番線ならぬ9と4分の3番線。ファンならば誰しもが知る聖地。撮影スポットには昼夜を問わず長蛇の列。そこから旅が始まるのだそうで。ほんの十年前までは市内有数の物騒なエリアも駅舎の整備とともに変貌を遂げ。治安こそ都市の魅力。
若者文化とストリートカルチャーのまちづくりを推進せんとする本市にあって手本とすべきはその地区、だそうで。古き建物の最上階に屋根裏を有するは仏系、角を曲がらば香辛料の香。多様な移民が混在する居住区にあって治安酷く、変貌に一役買うは。許可を得るより謝罪して許してもらう方が常に簡単、とは当人。が、昨今なんぞは倉庫に空き店舗等、そのまま放置されるくらいならば彼らに機会を、と所有者自ら。
美観損ねるばかりか犯罪を助長しかねぬ、排除に治安回復を狙いしニューヨークの事例は世に知られたところなれど、いや、彼らとて何も好んで犯罪を誘発したいものにあらず、自らの存在を認められればきっと。落書きかアートか。敵にさえも場所を提供するのが資本主義、と挑発的なメッセージ。その謎めいた存在が名声を高め。社会を風刺する作品群を見るに思想や明らか。英国を代表する画家ターナーと同列に並べられるは。
実はここだけの話。美術史に「も」造詣深く、なんて自分で言うな。入門書は「ギャラリーフェイク」、とりわけ西洋画などは独自の解釈含めてそれなりに。絵画の基本は「まま」を描くこと、そこに意味があったはずも時代が流れるに、「まま」を残すなら絵画よりも写真でいいじゃん、と写実の意義が薄れ、台頭を見せるは印象派。特有の額縁がその価値を高め。巨匠ゴッホなど生前に売れた作品は一枚のみ。後世の評価高きは弟テオの画商としての非凡な才に負う面が、なんてのはまたいづれ。されど、現代美術、いわゆるモダンアートとなると。
便器にサイン、マルセル・デュシャンのあの作品など美術を愚弄したものにあるまいか、なんて、ついこないだまで本気で。洗練された美術館に最も不釣り合いなものを展示するなど。いや、それこそが彼の狙い。美しき絵こそが一流の芸術との従来の概念を覆す、美醜は個々の価値観に負いはせぬか、と問いかけし彼の功績、古き権威の世界に挑みし大胆さこそ彼のすごさ。ならば、ウォーホルはどうか、絵というよりもイラスト、アーティストに含めるに云々とぶつけるに延々とその価値を説かれ。市役所近くの焼肉「三千里」で、この夏の話。
さりとて、わが作品こそ真の芸術とばかりに必死の売り込み、展覧会に置かれた事実こそが評価の証とばかりに自らの価値を高めんとする御仁もいないとは限らず。いや、それこそが芸術の醍醐味。モノの価値は生み出されるもの。人によっては巨匠の作品よりも自らの孫の絵のほうが。やはり何事も自らの目で。
(令和6年11月16日/2889回)
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