帆船
身の丈は知りつつも抑えきれぬ衝動に内心を打ち明ける少年。無言のまま窓の外を見つめる父の姿に「ごめんなさい」と踵を返し。その日の夕刻、ベッドの上で呆然と天井を見つめる彼を訪ねる父親がそっと手渡すは封筒。
添えられるは知人への手紙、そして、着いたら手紙をよこすように。功成り名遂げた後も忘れ得ぬはノック音、そのたびに涙がこぼれる、と。少年の名はトミー・アーマー。あの頃の選手はキャディ上がりとて少なからず。
期限迫るゆえ、と手渡されるは資産等報告書。土地に建物、自動車に有価証券はまだしも。船舶、飛行機、美術骨董品と続き。最後はゴルフ会員権。船舶なんぞは汽船か帆船かの種別を記せ、と。例に倣いて記入する欄は計十箇所。
いづれも「該当なし」と記すに思い知らされる境遇。何とも寂しい限り、とボヤくに。わざわざ手書きにあらずとも「なし」のゴム印ありましたのに、との事務員の一言は慰めになっておらず。
進路選択を迫られる高二の夏。親の都合にて子の可能性の芽を摘むは不憫と知れど、妻に聞かされる今どきの学費事情。抜きんでて高きその学部だけは。いや、そもそもにまずは偏差値が足りぬ。
その職種が収入面に恵まれるは大いに結構、なれど入口狭く、資格者が限定的とは何とも惜しく。公立小の普通級が如く様々な境遇が在籍する中にこそ学ぶこと多く。もそっと門を広げたほうが結果として業界の為に、とは余計な心配か。
さて、他党の存続に言及した発言に広がる波紋。オレはあの球団が嫌いだ、などと言っとるのと然して変わらぬ気がせぬでもないが、好き嫌いならぬ「なくなれば」とは言葉が過ぎたか。
いやいや、そこは魑魅魍魎の世界にあって、意図して過激な言い回しを選ぶことで世間の耳目を集めんとした可能性とて否定は出来ぬし、嚙みついたほうとて埋没しそうな中にあって存在感を示すに渡りに船と。ましてや存在そのものを否定されるはかえって好都合だったりも。
日々の駅頭なんぞでもオレはどこぞの政党の支持者だからアンタは支持せぬ、と公言憚らぬ御仁もおられ。そりゃ支持するせぬは当人の勝手。ただ、それを腹中に留め置くが賢き処世術ってもんで。「あえて」公言するは損にしか見えず。
坊主の性格と袈裟の品質に因果なく。肩書、学歴、勤め先でしか人を判断できぬ人物というのは何とも。やはり、思想信条を問わず人には親切にしておくもので。つい最近、んな政党のセンセイから耳にするは懐かしき苗字。私の社会人時代の同僚が同級生だそうで。
あの熾烈な競争社会、勝者総占めの外資にあって価値観こそ違えども人柄は別物。御元気そうで何より、というか、センセイと同い年と初めて知るに当時の不躾な態度はお許しを。
(令和5年7月31日/2796回)