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2021年4月25日 (日)

自立

上京を決意した息子、見送る父親が長距離トラックの運転手に手渡す茶封筒。「要らぬ」と返された封筒の中には泥の付いた一万円札。父の苦労に想いを馳せて涙する息子。架空とはいえその生き方から多くを学んだ黒板五郎の訃報に偲ばれる故人。あの泥酔などはどう見ても演技に見えぬ、俳優の田中邦衛さんが逝かれた。

恵まれぬ子らの為に、と置かれた封筒。他人のことよりもまずは自らの生活を優先すべし、と押し返せど、譲らぬ相手。とりあえず「預かる」ことで決着をみたものの、はて、どうしたものか。

手提げ付きの紙袋の原材料は読み終えた英字新聞なれどその作る手間や軽からず、売価が十円とあらば利益など見込めぬ。「作業所」や「授産」などの命名に抱く違和感。あくまでも障害者の働く場の提供、「就労」を大義名分に掲げて作られた施設にて採算は二の次。

憐憫の情の賜物ともいえようが、どうせ売れぬ、との勝手な値踏みこそが偏見ではあるまいか。逆説めいて見えるやもしれぬが、経営者にはそこが不思議に映ったに違いなく。月給1万円で障害者の自立が図れるか、「宅急便」の生みの親が創設したスワンベーカリーの挑戦が投げかけた波紋は小さからず。

かねて依頼を受けし施設を見学に訪ねた。近くに類似の施設があるはずも「あえて」選ばんとする保護者。一方の施設側、受入の対価は距離に拠らぬ、とすると送迎の手間を鑑みれば「拒む」選択もアリなれど、その期待に応えんと拒まぬ姿勢を貫く施設長。玉石混淆の福祉の世界、選ばれるにはそれなりの理由がある訳で。村八分に見る伝統文化を体現するが役所にて御上が示すはあくまでも最低水準。

義務教育が典型例。指導要領が示すは達成すべき基準。落ちこぼれを生まぬ教育こそ本分にてそこを疎かには出来ぬ。が、万が一にもそれを達成して涼顔を浮かべる余裕あるならば更に高みを目指さんとする生徒に手を貸さんとの欲があってもバチは当たらぬ。消えゆく放課後の個別指導は教諭の意欲以上に、余計なことをされては迷惑、との村社会の悪しき慣習が絡んでおるまいか、と。

リハビリに励んで介護度が改善すれど下がる報酬、上を目指さんとする施設が報われぬは理不尽、と本市が挑む健「幸」福寿プロジェクト。ニンジンをぶら下げるに賛否はあろうが、何とかせんとする意欲や悪からず、と思うけど。

癇癪とて障害児ゆえやむを得ぬと、そこに目を塞ぐは成長の機会を失いかねず。解明が進む脳のメカニズム、何も「預かる」だけが能にあらず。日々成長が見込めると知らばそれを手助けするは与えられし使命。

子供たちの成長を喜ぶは親御に限らず、携わる職員とてそこに生き甲斐を見出さば職種そのものの価値も変わるやもしれぬ。好循環を生む原動力や保護者の選択。ともに成長を目指さんとの理念を熱く語る施設長の下に研修の申出が絶えぬ、と聞いた。

(令和3年4月25日/2637回)

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