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2021年2月10日 (水)

直電

さすがに屑籠は無いにせよ机の奥で数年間が末路、と知りつつも卓上カレンダーを献上すれば早速に部屋の片隅ならぬ入口に置かれており。横浜市会の議長室。アルファベットの「f」らしき記号二つでフォルテシモ。三つならば「フォルテシッシモ」。主人公は言わずと知れたベートーヴェン。かねて見逃すまいと狙いし公演の席を入手したと吉報が寄せられるも手帳には予算審査特別委員会とあって。

予算案が届いた。歳入の根幹なす市税は3,454億円(前年度比△180億円)。長期財政計画、いわゆる財政フレームでは前年度比31億円の増収を見込んでいただけに実質は211億円の減。そのあおり受けてか、当初64億円を見込んだ減債基金からの借入は286億円となり、過去の累計は938億円。この間、黒字を続けてきたプライマリーバランスも赤字に転落等々。放漫の結果とするに酷なれど浮かぬ気分やさもありなんと。

携帯に残りし履歴。メールならぬ着信とあらばよほどの急用に違いなく。繋がりし相手の第一声や「話が違うではないか」と。その後、「議長はどういう説明をしとるんだ」と隣部屋の主も詰問を受けたとか。そう、録音機の話。そもそもに当事者同士の話に過ぎぬ、と匙を投げて拾いしは副議長。各方面に奔走いただいて整いし舞台。あとは鈴を付ける、いや、あわよくば「翻意を迫る」ということらしいのだけれどもそれこそがまさに肝心なところで。

果たして匙を投げた人の役割なのだろうかと迷いつつも、武運祈るなどと見送られて臨む市長との直談判。用件問われて「例の件」と下目遣いに返答すれば、「方針に変わりはない」とにべもなく。「くれぐれも慎重な扱いで頼む」と小声でつぶやいて、けんもほろろに退散したというのが実際のところなれど、部屋に戻れば一変。

「いや、相当に手ごわかった、必死の説得も翻意まで到らぬ、宥めに宥めて慎重な対応には理解を示していただいた」と。多少は「盛った」ところはあるやもしれぬ。議長の直談判のおかげで、などとその後に寄せられる謝辞にどことなく違和感を覚えていたのは事実で。取り繕わんとするに誤解を招いたとすれば自らの不徳を恥じねばなるまい。

その後の現場検証の結果、質問に対して用意された答弁書を巡って紛糾、その間に調整した内容が上層部に「正しく」届いておらぬとの訴えに対して、齟齬をきたさぬよう手段を講じると相手方。とすると私は何を解決すればいいのだろうか、応仁の乱ではあるまいに。いや、正確に情報が伝わらぬ、そこを突破口とするならば、そこに作為的な意図があるやなしや。

仮に作為的とするならばその不誠実な対応は厳しく咎められねばならぬ。さりとて、そこに一抹の情をかけるとすれば、そうせざるを得ない状況を生みだす背景とてあるのではないか。恫喝まがいもあるやもしれぬ、それに抗いきれぬ臆病な当人の性格、御大将を庇わんと腐心した帰結。されど、そのまま持ち帰れぬと思わせるに主の性格とて災いしておらぬか。

短気は損気、主を相手に家臣がモノ言えぬ悲劇。本能寺にならぬ前にアンデルセンの童話でも届けるべきか否か。「直電」などというものは精神的な動揺を生みかねず。鳴らぬに限る。

(令和3年2月10日/2623回)

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