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2016年8月29日 (月)

金華サバ

達成率というか完走率9割以上などと聞けばなんだ大したことないぢゃないかと思ってしまうのだが、何せ距離が距離だけに冷やかしはハナから除外されてツワモノばかり。距離だけであればフルマラソンに毛の生えた(随分余裕だナ)もんだけど参加証と一緒に届いたコースマップを見れば50kmの山越えでその高低差が...1千m以上。

ちなみに心臓破りの坂で有名な箱根駅伝5区(23.2km)は860mなだけにそれは無謀な挑戦に近いけど目の前の壁は高ければ高いほど達成感があるんだよナ。まぁそんなことで日々の特訓に余念がないものの、天候不順で思うように調整進まずに募る不安。やむなく事務所で机に向き合えばTさんからもらった鈴虫がいい声で鳴くんだよナ。「走らんでいいのか?」って。ということで刻一刻と近づく本番を前に未だ津波の爪痕が残る海岸線を走った。

道路の左右に広がる田んぼ。方や青々とした稲が育つも反対側は枯れ草生える休耕田。震災後の転居で不在のケースもありそうだけど、中には風評に売れるか分からんコメを作る位ならば放っておいて補助金を貰ったほうが...との判断がない訳ではない。金銭の損得勘定ではそちらに分があるかもしれんけどいつまでもそちらに依存していては自ら立てなくなる訳で働く意欲だけは失ってはいかんよナと。

一夜にして家も家族も失う悲しみに猫の額ほどの部屋で仮設暮らしを余儀なくされる住人の苦悩は当人にしか分かりえないと知りつつも被災地でボランティア活動を続ける知人に請われて御一緒させていただくことになった。目的地は福島県相馬市及び飯館村。事故後、距離に応じた円盤状に区域指定がなされるも風向きや地形が災いしてか圏外ながらも避難区域(つまりは帰宅困難)に指定された飯館村は原発の北西に位置する自然豊かな村。

黒い袋を覆い隠すように緑色のシートが被せられているものの、休耕田に積み上げられた除染袋の山々が前途見えぬ復興を物語る。その必要性こそ否定しえぬが終わりの見えぬ作業には安からぬ費用が投じられている訳でさすがにそこまでやれば...。来年4月には避難指示が解除(一部地区除く)されて晴れて帰村が可能というが、村内における耕作は一律に禁止されるそうで諸手を上げて喜べる状況にはないとか。

下手に同情を寄せても事態は一向に改善される訳でもなく、陰鬱な気分になるばかり、さりとて、冗談半分に笑いを誘おうにもかえって不快な想いを抱かせないとも限らず、慎重に言葉を選びながら話を進めるも知人がとりなして下さったおかげで気紛れ程度の役は果たせたか。いや、意外とこちらの自己満足だけだったりして...。

野馬追いで有名な相馬市は天然の漁場に恵まれた漁のまち。今回の津波で松川浦を含む海岸線は壊滅したものの、着実に進む漁港の整備。海の向こうにはサバで有名な宮城県の金華山が見えるから多分それは「金華サバ」なんだろうけどこちらで水揚げされれば違う名称であるばかりか放射線量の計測が義務付けられるそうで、何とも理不尽な話だが、そんなことにもめげぬ漁師たちの元気な声を聞くとともに、朝ラン途中で高台の慰霊碑にそっと手を合わせた。

(平成28年8月29日/2285回)

電子書籍「一日一話」

「一日一話」表紙

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